研究概要 |
悪性腫瘍や癌による生体軟部組織の性状変化には,形状の不整などの形態的変化に加えて線維化や硬化などの粘弾性的特性の変化がある。たとえば乳腺などの表在組織の診断では,乳癌は硬く,明らかに良性腫瘍とは異なっている。本研究では,超音波を用いて組織の硬さ性状を診断する方法の一つとして,生体軟部組織に外部から静圧ないし10Hz程度以下の微弱な低周波機械振動を加圧して,この振動加圧に応答した組織内部局所の微小変形をプローブ用高周波超音波で測定し,体外からは直接に触診できない臓器も含めて「手で触れた時の硬さ」をin vivo映像化するのが目的である。 微小振動負荷に対する生体軟部組織内部の変位量は,我々の開発した時空間微分勾配法を用いて,RFエコー信号の振幅変化と位相推移から検出する。さらに組織の局所変位量から組織の硬さを定量化するために応力-歪関係における構成方程式と力学平衡式を利用して,歪と歪空間勾配を算出し,剪断弾性係数の相対値を求め,「手で触れたときの硬さ」の分布を再構成する方法を確立した。 本法による組織硬さ特性の定量化を検証する目的で.弾性的性質の異なるコンニャクと豚肉を利用して生体軟部組織の模擬ファントムを作成し,外部から静圧を加えた場合のファントム内部の変位と歪テンソルを空間分解能を8mm×8mmで算出し,相対剪断弾性係数の分布を映像化した。コンニャクと豚肉のYoung率の比は4.1対1.2であり,豚肉はかなり柔らかいことが知れた。さらに心拍動に起因する肝臓組織の変位と歪テンソルをin vivoにて計測した。正常肝では,歪は3〜8%と大きく,心臓からの圧迫を吸収するように変形しており,組織が柔らかいことが示された。一方肝硬変では,歪は2%以下と小さく組織が硬くて変形を生じくいことが定量化された。
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