本研究において論理定項の概念を再検討する契機となったのは、論理定項をめぐる議論には二つの潮流があり、それらの間のある種の埀離に気付いたことである。これは、論文「論文定項についての研究ノート」において明らかにしたように、論理定項に対するモデル論的アプローチと意味理論的アプローチの間の埀離でもある。同じ自然言語を対称としているにもかかわらず、論理定項という理論的な概念を規定するにあたって、それぞれの立場によって相違が生じている。この事実は、逆に見るならば、二つのアプローチの観点ないし背景の違いを照射してくれるのではないか、言い換えれば、論理定項の問題を基軸にして、言語の問題へのアプローチの基底にある相違を明らかにできるのではないか、というのがここでの出発点となる見込みであった。 この線に沿って、暫定的なものではあるが、次のようないくつかの見通しと問題点を明らかにすることができた。 1.論理的定項の機能を考える上で、構成的な観点を持ち込むことによって、モデル論的なアプローチと意味理論的なアプローチとが完全に埀離したものではなく、その間にある種の連続性を考えることができる。つまり、構成的な観点で、論理定項を規定しようとしたとき、そこでは一種のモデル論的な考察を展開できるにもかかわらず、同時に意味理論的な問題(例えは、アプリオリティの問題)が一定の意味を持ちうる。 2.一般化された量化子理論においてもいくつかの立場を区別することができ、それらの立場に応じて、論理定項に関する様々なタイプの考え方を定式化できる。特に、構成的な観点から一般化された量化子理論を展開することが可能と考えられる。 コミュニケーションを構成するものとしての規約という概念の分析が理論定項の概念分析にどう関連するかという問題は、意味の問題を規約的観点から考える立場の試金石となると思われる。
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