今日様々なコミュニケーションは、ハイテクノロジーに支えられた電子情報メディアに負っています。そしてコミュニケーションの場はお互いの具体的な場所の共有から抽象的な情報の共有へと変容しつつあります。こうした変容は、ハイテクノロジーの所産を取り込みだした芸術作品全体をも質的に変化させました。本研究は、情報という観点から近代・現代芸術の動向を見直すことによって、芸術作品の持つ場所的特性がどの様に情報としての場に変化するのか、さらにその変化の今後を予想することでした。 第一の研究対象として、芸術作品が作品自体の展示によってではなく、情報メディアを経由して、作品から抽出された情報によって疑似的に鑑賞されうる状況を調査しました。作品が持つ独自な意味ではなく複製によって伝達可能な情報が作品自体を越えて流通することです。その先駆は写真等にも見られますが、今日現実に芸術情報は美術館、出版社等の画像データベースとして実験的に運用されつつあります。この実例の比較検討で得られた点は、芸術に関する情報のあり方を体系づける方途はまだ言語化可能なものに限られていることでした。 第二に、芸術作品自体が消え去り、その情報のみが一人歩きする事実の認識と予想です。さらに個々の情報以上に複数の情報間の関係の問題です。その点から、現有のコンピュータ上に芸術作品に対する仮想の情報ネットワークを構築し、与えられた情報に対してそれが本当に現実の芸術作品への指向をなすか否か、そして、指向がなされない場合、その対象は何なのかといった基礎的な実験を行いました。その結果情報は内部でその指向を完結する傾向にあり、外部へとは向かいにくいことが分かりました。 以上2点によって、情報という観点から芸術作品成立の可能性等の検証を行いました。
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