研究概要 |
1.本研究では,皮膚電気反応と視覚刺激に対する凝視時間を指標として,刺激のモダリティと課題教示がヒトの定位反応にどのような影響を及ぼすかを検討した.従来の研究では,生体にとって意味のある刺激(有意刺激)に対して出現する“選択的定位反応"の生起が報告されているが,筆者は,有意刺激と異なるモダリティで提示される非有意刺激によっても定位反応が誘発されることを示してきた.実験操作的には生体にとって何等の意味も付与されていなかった刺激に対して定位反応が出現したという事実は,これまでの研究では報告されていない知見であり,定位反応の適応的意義から“警戒的定位反応"と仮説的に名づけられた.この警戒的定位反応がどのようなメカニズムによって出現するのかを検討するため,従来,定位反応の指標として測定されてきた自律系生理反応である皮膚電気反応に加えて,生体の行動的反応である凝視時間を取得して予備的実験を行った.その結果,皮膚電気反応においては刺激の反復提示に伴う反応の減少,すなわち馴化が見られたが,凝視時間にはこのような傾向が示されなかった.また,課題教示の効果についても,皮膚電気反応には課題群における増大した反応(選択的定位反応)が誘発されたのに対して,凝視時間には課題群と統制群とで差が認められなかった.これらの傾向は,凝視時間が定位反応の指標としては適切といえないことを示唆するものであるが,凝視時間に影響する刺激の持続時間が1秒間と短かったことが上記のような結果をもたらしたとも考えられる.そこで今後は,刺激の持続時間を長くするなど,実験手続を変えてさらに検討する必要があると思われる. 2.これまでの定位反応研究の歴史的背景と展望を,定位反応の誘発と馴化を説明した様々なモデルを検討しながら,「定位反応研究の歴史と展望-誘発モデルの展開を中心として-」としてまとめた.
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