本研究は、聴覚的注意を特定の方向に向けることが可能であるか、すなわち意図的な注意の空間的指向によって聴覚的感度が上昇するかという点を検討する目的で行なわれた。実験は信号検出理論の方法により、S刺激には4ms・800Hzの純音、N刺激には500ms・500〜2000Hzのバンドノイズを使用した。被験者は、N刺激あるいはS+N刺激(SはNの前、ISI=10ms)を5秒の試行間間隔で聴取し、それがいずれの刺激音であったかを判断することが求められた。実験は防響室内において、被験者を取り囲む形で前方正面、左右60度、左右120度および後方正面に6台のスピーカーを設置して行われた。スピーカーの高さは着席した被験者の耳の高さとなるようにし、各々のスピーカーには番号が記されていた。24試行を1セッション、18セッションを1ブロックとして、全実験は5ブロック、計90セッションからなった。各セッションは、次の3条件のうちいずれかの条件のもとで行われた。まずF条件では、セッションを通じて特定のスピーカーから刺激が呈示され、被験者にはそのスピーカー番号が予め知らされていた。K条件では、試行毎に刺激呈示のスピーカーがランダムに変えられたが、被験者には反応記録用紙に記された番号により刺激呈示のスピーカーを知らされていた。U条件においては、試行毎に刺激呈示のスピーカーがランダムに変えられ、被験者には呈示スピーカーに関する一切の情報が与えられなかった。実験の結果、いずれのスピーカーから呈示される刺激においても、弁別容易度d'に条件による顕著な差異は見いだされなかった.この結果は、聴覚的注意を特定の空間方向に指向し、聴覚的感度を上昇させることが不可能であることを示すものである.ただし、この結論が普遍的なものであるか、あるいは本実験の課題や条件に特有なものであるかについては今後更なる検討を必要とするものである。
|