ニホンザルを含むマカク属のサルは乱婚型の社会を持つため、行動上から父親を判定するのは困難であったが、近年、遺伝子工学の発達をふまえ、DNAによる父親判定の方法が確立され、雄の集団内における地位や順位、年齢などの属性と繁殖成功度との関連について、興味深い成果が得られるようになってきた。なかでも興味深いのは、ニホンザルの場合、子孫を残すという点では、集団内にいることで、低順位の個体も高順位に劣らぬ利益を得ているということであった。 本研究では、集団内の比較的若い成体雄や一旦群れ落ちした後に再び集団へ戻ってきた雄が行う、未成体に対する親和的な関わりかけを、彼らが集団内に定着するための一種の戦略であると考え、若い雄たちの未成体に対する関わりかけを定量的に分析することをその目的とした。 過去に群れ落ちしたり周辺化して、通常集団の近くで姿を見ることのできなかった若年齢成体雄が、集団の近辺で観察されるようになったのは、交尾期に近づく9月頃からであった。この頃から、多くの若年齢成体雄は、集団の周辺部において、未成体の雄や、若年齢の成体雌と社会的な接触を持ち始めた。また、若年齢ではないが、普段から集団の周辺部にいた高年齢の成体雄が、集団内の多数の未成体と給餌場面において伴食するのが観察されるようになり、この伴食関係は交尾期の間、継続的に観察された。 多くの若年齢成体雄は、交尾期の終了とともに再び観察できなくなったが、中には未成体との遊びなどの相互作用を通じて集団の周辺部にとどまる個体もおり、これらの個体が今後どのように集団の他個体との関係を保つのかは、今後の観察を待たねばならない。
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