本研究では、聴覚的認識課題における直接プライミング効果の新たな測定方法として、日本語文の合成音声に対する主観的評定課題を用いた。材料として、日本語を母語とする大学生にとり既知ではあるが熟知度が相対的に低い名詞2語を助詞の[の]で結んだ句を40個形成し(例「はやうまれの ききんぞく」)、その句を日本語音声合成用ソフトウェアSPIEL(キャノン製、NeXT Computer用)を用いて聴覚刺激を作成した。この聴覚刺激に対して、「音の良さ」を7段階で評定するよう求める課題をテスト課題とした。40句の内半数は、事前の学習段階でプライム刺激として聴覚もしくは視覚提示して「意味の良さ」の評定を行った。72名の被験者とする実験の結果、プライムの有無の効果、プライムの提示モダリティの効果、および両者の交互作用が有意であった。すなわち、これまでの多様な課題条件での知見と同様、合成音声の「良さ」の主観的評定においても、直接プライミング効果が存在し、テスト課題と同じモダリティでプライムを提示された場合に最も大きなプライミング効果が示された。しかし、プライムが聴覚提示された群では非ターゲット句であっても音の良さに対する評定値が高く、その平均値は視覚提示群でのターゲット句とほぼ同程度であったこと、またそのため、同一モダリティ内でのプライムの有無のよる評定値の差(=プライミング効果の量)は視覚提示条件の方が大きいことが示された。これは、「音の良さ」に対して意味がわかることの効果が大きい、すなわち従来の研究結果に比べ意味的要因が大きな意味を持つことが示すこと、および、聴覚刺激に対する主観的評価では句や語以下のレベルでの直接プライミング効果が大きな効果を持つことを示したといえる。この2点の問題については、今後さらに検討といてく予定である。
|