研究概要 |
従来、顔表情の認識を検討する場合、評価刺激として写真やスライドなどの静止画像を用いてきたが、本来的には表情は動きのなかから認識されることの方が自然である。さらに表情の変化それ自体がその人物の認識に影響を及ぼすことも考えられる。本研究は、動的表情の認識特性を検討する前段階として、実験1では表情の変化が人物の既知性判断にどのように影響を及ぼすのかという点について、実験2では静止画像に含まれるどの空間周波数成分が表情認識にとって重要であるかという点について検討した。実験の概要は次の通りである。 実験1では短大の教員スタッフの真顔と笑顔の写真を撮影してターゲット刺激とし、これらに有名人や無名人の真顔と笑顔の写真を混ぜて、既知性判断課題を実施し、反応時間を測定した。その結果、短大の教員スタッフの場合、笑顔よりも真顔に対する反応時間が短くなり、一方、有名人の場合は表情による反応時間の違いは見られなかった。 実験2では真顔、笑顔、悲しい顔の写真画像をフーリエ解析し、遮断周波数を4水準(5,8,12,15c/fw)設定して、それぞれの水準において高周波カット(low-pass)、低周波カット(high-pass)の画像を再合成して刺激を作成した。これらの刺激を用いて、真顔と笑顔、真顔と悲しい顔の弁別課題を被験者に実施した。その結果、真顔と笑顔の弁別の場合、どの水準においても高周波カット、低周波カットに関わらず、弁別成績は高かったが、真顔と悲しい顔の弁別では、高周波カットにおいて極端に弁別成績が低下した。 2つの実験は、1)知っている人物でも、日常の知人と有名人とでは表情の影響が異なること、2)笑顔は低空間周波数情報だけでも認識できるが、悲しい顔は高空間周波数がなければ認識がかなり阻害されることを示している。これらの基礎データを基に、現在、動画像における表情認識を検討中である。
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