1.研究目的:乳幼児の無生物(タオル、毛布、ぬいぐるみ等:移行対象とも呼ばれる)に対する愛着と母子間の愛着関係との間にいかなる関連性があるか、また移行対象の使用が否定的情動の制御にどのような意味を有するかについて検討する。2.研究対象:月齢12か月の乳幼児とその母親31組み。3.方法:(1)質問紙調査…母親に対して、移行対象の有無、その種類、発現時期、使用頻度等、また養育形態、分離体験等に関する質問紙調査を実施した。さらに、Qソ-ト法を用いて子の愛着の安定性に関するデータを、Carey版の気質尺度を用いて子の気質行動特徴に関するデータを得た。(2)観察・実験…各家庭を訪問し、母子相互作用(遊び場面・食事場面)の観察・録画を行った。また、子に対して(奇妙な動きを見せる子の否定的情動を喚起すると思われる)新奇な玩具を提供し、それに対する子の情動制御方略(移行対象の使用を含む)を観察・録画した。4.主な結果:(1)移行対象の使用状況…特定の無生物に対して日頃から愛着を寄せる子は31人中8人に過ぎなかった。この使用比率(26%)は遠藤(1991)が大規模調査を通して算出した数値38%に比して低いと言えるが、これは本研究が12か月段階のみの使用の有無を問題にしているからだと考える。(2)愛着との関連性…Qソ-ト法のデータに基づき最初、子の愛着のタイプ分けをしたところ、大半の子が愛着安定型となったため、タイプ分けではなく愛着の安定性得点を算出し、移行対象の有無との関連を検討することにした。結果は、移行対象を持たない子の方が持つ子に比してやや愛着の安定性が高いという傾向が認められたものの、その差異は統計的有意水準に達しなかった。(3)情動制御との関連性…否定的な情動(恐れや不安定)を喚起すべく新奇な玩具を提供したところ、移行対象使用児8人の内5人までが日頃から使用している移行対象を探したり、求めたりする様子を示した。ただし、そうした子と他の子との間に情動の静穏化に有意な差異は見出されなかった。5.今後の計画:移行対象の発現および母子の愛着関係に関して、今後2年間(月齢36か月時まで)縦断的に追跡調査する予定である。
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