本研究においては、平成元年から平成3年にかけてのいわゆる「バブル経済」期の労働時間短縮要求の高まりに起因する、生活の余暇化への志向を、産業社会の秩序再生産の一画を構成するものとして位置付け、この視点から以下の分析をおこなった。 【.encircled1.】政府刊行白書(『労働白書』、『経済白書』、『国民生活白書』)の分析。これによって「バルブ経済」期と余暇志向(ゆとりある生活、豊かな生活)の相関関係が明確化された。 【.encircled2.】地方自治体において余暇政策関連の資料収集。これにより、都市化-過疎化による余暇政策と余暇志向の特色、地域の産業構造と余暇志向の相関関係が確認できた。 【.encircled3.】自動車産業、エネルギー産業を中心とした労働組合による余暇関係政策の資料収集。これによって、「バルブ経済」期前後における余暇への志向の変容が明確に確認できた。 以上の三点からなる資料の分析によって、「ゆとり・豊かさ」をキーワードとする余暇志向の高まりは、我々の価値観の多様化にともなう自己実現の契機としてではなく、景気動向に大きく規定された産業社会の秩序の再編成=産業社会から提出された選択肢の選択であり、この選択こそが「差異」に他ならないことが明確となった。また、こうした選択肢は地域的特性、産業構造、社会階層、年齢等によってその内容をことにするが、このような余暇志向の特定のパターンを類型化することにより、選択肢としての差異化からシフトしたメタ差異化に基づく余暇社会を構想する手掛かりが得られるはずである。 また、今後の問題点としては国、地方自治体、労働組合による余暇政策による、個人の価値意識への関与の問題が挙げられる。
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