本研究は、近年障害の重度化と重複化の著しい盲学校教育現場の現状を踏まえ、既存の視力検査が実施困難な視覚障害幼児のための視力評価法の開発を目的として行われた。今年度は、視力測定に用いる視標および、測定手続きが視力検査実施の成功率に与える効果について、精神発達遅滞をともなう視覚障害児を対象に検討した。視標は既存のランドルト環視標と絵視標、およびランドルト環と絵視標の見本視標を作成した。手続きは、(1)従来実施されてきた手続きと、(2)視標を提示して子どもの手元に並べた見本視標を選択する「見本合わせ法」を用いた。また、「見本合わせ法」では言語指示による検査課題の理解が困難な場合には、他者のモデル提示によって理解を促した。 その結果、ランドルト環検査、絵指標による検査とも、見本合わせ法による手続きの方が、より発達レベルの未熟な対象児に実施可能であるこが検証された。特に、以下の2点、すなわち(1)従来の方法では全く測定が不能であった対象児にも実施できたこと、(2)従来の方法である程度測定できるものの結果が不安定であった対象児検査において確実に実施できた点において、本研究の検査手続きが有効であることが明かになった。しかしながら、検査の実施が困難な対象児も多く、測定可能な年齢の下限は2歳6ヶ月程度であると推定された。 また、さらに低年齢の対象児への自覚検査実施の可能性を検討するための予備的実験として、健常幼児を対象に最小視認閾視標を用いた視覚-運動操作手続きによる視力検査を行った。その結果、1歳6ヶ月程度の対象児においても検査手続きの理解が可能であり、検査への子どもの意欲も良好であることが示唆され、(1)各検査の適用下限年齢を明かにすること、(2)視覚-運動操作手続きの有効性の検討が課題として残された。
|