本研究のねらいは、将来、そして少なくとも現在において我が国への労働移民(技術者)に対する教化政策の一環として提示されるべき、教科書を開発することにある。このようなカリキュラムの比較分析を課題としたのは、何よりも我が国が現在直面している緊急の課題であるにもかかわらず、この分野での研究が立ち遅れている現状にある。教科書の内容分析を通じて、労働移民(技術者)が日本の社会に円滑に社会化されるための支援プログラムを作成し、同時に「国際理解科教科書」の在り方を検討した。具体的には、外国語教科書、国語、地理教科書、家庭科、道徳副読本について、日本、アメリカ、中国、韓国、そして第三世界及における内容分析から自民族中心主義、親子関係、性差、道徳性といった諸価値の異同を数量的に抽出した。 (1)地理的分布について。我が国の教科書の内容が、予想以上に欧米志向で、とりわけ西欧志向だということ。具体的には、科学・技術はドイツやイギリス、音楽はドイツ、オーストリア、美術はフランス、といった固定した文化内容が現在も伝達され、アジアに関わる記述は少ない。(2)性差について。我が国の家庭科の教科書では、男女の分業が顕著であり、加えて老人や幼児の登場回数がアメリカやアジアの教科書に比べて少なく、技術(制作)中心である。(3)親子関係について。道徳副読本の比較から見ると、我が国の場合、父親の登場回数が少なく、母子関係の頻度が大きい。 以上の我が国の教科書の比較分析から、労働移民を日本社会に適応させるためのカリキュラムとして、異文化や移民族に対する積極的理解、日本文化への受容的態度、適応性、知的好奇心、文化的相対主義や全体的立場に立つ教材の選択、特に、日本に対する親近感を増す上で、知日家や親日家の伝記教材が有益であることが明らかになった。
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