本研究は、アメリカ合衆国における労働者教育が活況を呈した1920年代・1930年代の労働者教育運動および政策を検討することにより、労働運動および諸社会運動と労働者教育の関連、成人教育史・教育史における労働者教育の位置付け、そして労働者教育の意義と限界を明らかにすることを目的とするものであった。こうした目的を達成するために、20年代・30年代労働者教育運動の中心となった女性労働者の活動に着手し、(1)女性労働者の生活・労働課題と学習要求の関連、(2)労働運動、平和運動、女性参政権運動、などの社会運動と労働者教育運動の関連、(3)前記(2)における女性の役割、(4)公的成人教育と労働者教育の対抗・矛盾関係、を分析の柱とした。 本研究の結果、アメリカにおける労働者教育運動発展の中心となったのが、公的な教育制度からも労働運動の主流からも疎外されてきた女性労働者であったこと、こうした女性労働者らによって進められた1920年代の労働者教育が、1930年代にはニューディール政策の一つとして展開され、公的な成人教育政策と自立的な労働者教育運動との間に相互連関的な発展があったこと、女性の労働者教育運動において労働運動と女性参政権運動や平和運動などの諸社会運動との結合が見られたことを明らかにした。こうした研究成果は日本における従来のアメリカ成人教育史研究においてもアメリカ女性史研究においても見落されがちであった女性労働者教育史に焦点をあてたものであり、その欠落部分を補完するものであろう。
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