本研究の成果によれば、現在のアメリカ合衆国の大学の基本組織である「デパートメント」は、19世紀後半、アメリカ高等教育史が、いわゆる「ユニヴァーシティの時代」に入るとともに成立した。「デパートメント」という名称自体は、それ以前にも存在したが、現在のような専門研究分野別の自律的大学内教員組織としてのその原型は、最も早い例を1880年のコ-ネル大学とジョンズ・ホプキンズ大学に見いだすことができる。 成立の歴史的要因としては、アメリカ高等教育史における、(1)実用的・実践的な分野の教育への関心、(2)学問の専門分化とそれに伴う古典的カリキュラムの解体、(3)研究および専門職陽性機能の重視、の3点が主要である。それらは、いずれも伝統的カレッジの単一の教員組織(faculty)の分化・再編成を要請した。またこれは、アメリカ高等教育史上、大学の管理運営において、教員集団(教授会)の主導権を握る過程とも一致している。 しかし、デパートメントは、確立されるにしたがい、細分化や再統合を繰り返す中で「孤立化」を進める例が多い。そしてそれが「専門学科主義」を生む。ところが、「ユニヴァーシティの時代」に入っても、アメリカの大学の学士課程教育においては、一般教養教育は依然として重視され続けてきた。一般に専門学科主義は一般教養教育の実施にとっては阻害要因となる歴史的事例が多くみられる。これに対して、各大学では、新しい時代にふさわしい一般教養教育の改革を試みることになる。そしてその際、大きく次の4つに類型化される対応がみられることが明かになった。すなわち、(1)デパートメントを廃止し完全必修制カリキュラムを構築する、(2)デパートメントに属さない独立したカレッジ(一般教養)教育教授会を編成する、(3)複数のデパートメントを複合して「学群」(group)を構成する、(4)超デパートメント的・学際的committeeやinstituteを設置する、などである。
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