本研究の目的は、ラテン・アメリカ諸国が有する文化遺産、とくに考古学的遺跡に焦点を当て、各国政府関係機関ならびに地域住民の対応を比較し、同地域が抱える社会問題と絡めて、現在あるいは過去(植民地時代以降)における遺跡の社会的位置づけを検討し、世界観と歴史観の様態を探ることにある。 1.本年度実施した研究の内容は以下の通りである。 (1)ペル-国において収録されたインタビュー記録(テープ・筆記)を日本語に翻訳し、分類と整理を行った。 (2)現地政府の対応を示した公文書、新聞記事、週刊誌の記事の分類、整理を行った。 (3)国立民族学博物館のクロニカ(年代記)データベースを利用し、植民地時代以降の遺跡の扱われ方を探った。 (4)先コロンブス期の工芸品について、日本各地の美術館、博物館での所蔵状況を調査した。 2.本研究に関する新たな知見については、南米ペル-国における遺跡の保護に関する問題点をあげておく。 (1)盗掘者へのインタビューの結果、彼ら自身にとって、遺跡は自らの先祖が残したものという意識が極めて乏しいことがわかった。遺跡はインカに属するが、自分達はスペイン人の子孫である彼らが答えるケースが多く、アイデンティティをどこに求めるのかが遺跡保護の一つの鍵となりそうである。 (2)盗掘は商業的な目的のものばかりでなく、古来からの習慣としても存在する。どちらも(1)でとりあげた盗掘者の意識があって成り立つ。呪術と結びつく場合も、遺跡自体が異人の残したものであり、力があるからこそ、呪術者の依頼して、保証をもらった上で、盗掘を行っている。文化財としての遺跡の重要性を説くだけでなく、歴史教育を含めた幅広い観点を持たない限り、盗掘は止まない。 (3)しかし大半の盗掘は、売買を目的とするものであり、欧米ばかりでなく、日本まで含まれた世界的な買い取りルートが存在する。盗掘はこうした需要に支えられている面もあり、買う側の意識改革も必要である。
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