日本を含む世界の諸民族の呪的歌謡、伝承等と比較しつつ、私がこれまで収集したピグミーの合唱や口承伝承をデータベースに入力している。この結果、現在までに以下の知見が得られた。 1.超自然的世界との交流という機能は、アフリカのピグミー、ニューギニアのカルリ族など、世界各地の歌謡に見られる。また日本や欧米の商業音楽においてさえ、非日常的な経験が歌われる。つまり歌謡における呪的機能は東西を問わず、普遍的に存在すると考えられる。 2.ピグミーの歌の多くは夢の中で、あるいは覚醒状態において超自然的存在に教えられたとされている。同様のことは北欧アメリカの先住民、アフリカのその他の諸民族でも報告されており、人類に普遍的な現象である可能性がある。 3.さまざまな地域において、神話や口承伝承も、夢の中での超自然的存在との接触によって生みだされるとの報告がある。神話と歌謡のいずれもが超自然的世界との交流という属性を持ち、それらが夢の中での経験という同一の起源をもっていることに注意すべきであろう。 4.以上の結果から歌謡と神話の密接な関連が示唆される。従来諸民族の文化、価値体系の中枢として神話および口承伝承が第一にとりあげられてきたが、歌謡もまたそれらと同様の重要性をもつものとして考慮されるべきである。 神話、口承伝承および歌謡の起源としての諸民族の夢の研究が今後必要とされよう。
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