研究概要 |
本研究は,後漢時代の在地社会に支配層であった豪族層が,在地社会における自己の勢力を伸張させるために,国家といかんる関係を結んでいくのかという問題を,後漢国家の支配理念である儒教と豪族との関係に注目することにより解明することを目的とした。そのための方法として,後漢時代の研究において,基本的な史料となる「後漢書」・「後漢紀」のうち,従来ほとんど等閑視されてきた「後漢紀」をとりあげ、その版本調査などを行った。かかる基礎作業を踏まえたうえで,後漢国家の支配の場に現れた儒教を追求し,その結果,得られた成果は,次の通りである。 後漢国家に特有な支配は,前漢時代の儒教的な支配である「徳治」とは異なる支配である。前漢時代の「徳治」が、循吏による治水・灌漑や儒教による教化政策であったことに対して、後漢の儒教的な支配は,「寛治」と名づくべきものであった。「寛治」とは,後漢国家の支配の具体的な場において,在地社会における豪族の社会的な規制力を利用する支配であり,後漢時代における儒教は,それを「五強在寛」という理念によって正当化した。こうして後漢国家は,「寛治」という儒教的な支配によって,自己の支配を豪族を利用しながら現実のものと成しえたのである。
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