本研究では、「情報伝達システム」という点から、中国古代の国家支配のあり方について検討を行った。作業の重点をデータの収集・整理に置いたため、現時点では研究発表の形にまではまとまっていないものの、これらの作業を通じて、以下の事が明らかとなってきた。 すなわち、災害や瑞祥・怪異の出現などの特異な事例から、中国古代国家による情報収集のあり方について検討を加えたわけであるが、そこから 1.『後漢書』張衡列伝の例などでは、地震発生の情報が1日数百キロのペースで首都に報告されており、この時代としては驚異的に早いものであること。 2.しかし、『漢書』五行志に見られる瑞祥・怪異出現記事の分析からは、このような当時の国家の情報把握能力は、首都近辺と地方の各拠点とに限定されていたのではないかと思われること。 のニ点が指摘される。このことは、見たところ強力に思える中国古代の国家支配が、その実態において、「点と線」の限定されたものであったことをうかがわせるものである。 なお、こうした国家による「情報の収集」と並んで、「指令の周知」という逆のベクトルの問題についても、検討が必要であると思われ、まずは「軍事」、そして「敦煌文書に見える在地社会」というニつの面から事例を収集し、以後の検討のための場を設定している。 今後は、こうした諸点の整合的な分析と並んで、書写材料が「木簡から紙へ」変化したことによる情報伝達システムへの影響などについても考えてゆきたいと思っている。
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