まず、東北大学考古学研究室に所管されている現生動物標本類の整理と、それらのコンピューター登録をおこない、考古学研究機関としては有数の規模を誇る標本の系統的管理を可能にし、標本が不足している種を重点的に購入、あるいは無償寄託によって補い、コレクションの拡充に努めた。これによって、動物考古学において欠くことのできない基礎資料の充実をはかることができた。なかでも、シナイモツゴやタナゴ属などの希少淡水魚の骨格標本を入手したことは特筆される。 一方、出土動物遺存体の分析は、東北大学考古学研究室所蔵資料の分析を基軸とし、周辺の遺跡群出土資との比較検討からのデータの蓄積・客観化をはかった。特に主眼をおいたのが宮城県田尻町中沢目貝塚における分析である。比較資料として岩手県花泉町中神遺跡、宮城県気仙沼市田柄貝塚、同県鳴瀬町里浜貝塚、同県仙台市中在家南遺跡、同市高田遺跡の資料を確保することができた。ただし、多くの遺物類について保存処理が必要であったため、分析に手間取り、全体的分析・集計には、ほぼ本年中を要する見込みである。 現在までの集計・分析では、東北地方での縄文から弥生時代にかけての哺乳類の年齢構成には有意な変化は見られず、狩猟圧、家畜の様相は捉えられない。しかし、Sus scrofa(イノシシ)頭蓋骨には変異がみられ、これを定量的に検討する必要性が明らかになった。鳥類については、目の小さい金属フルイによる水洗選別で、検出量を増加することに成功したが、種名の特定は困難であった。今後、特に小形鳥類の現生標本の拡充と更なる分析が必要である。 また、その他の動物類でも出土率・形状・体長組成などに時代的変異が認められるものもあり、今後定量的分析の蓄積から、縄文時代から弥生時代への生業構造の変化を実証的に立論し行くことが可能であり、重要な課題であるとの管見・予察を得ることができた。これらのデータ類は写真・属性カード・図面として記録し、東北大学考古学研究室に保管している。
|