本研究においては、次のような作業等をおこなった。 1.江戸時代の文献資料(物類称呼・浪花聞書・本草綱目啓蒙・日本物識たからばこ・皇都午睡・守貞漫稿・東西言葉合わせ)から東西方言対立語を収集し、さらに辞書・随筆・戯作類(人倫訓蒙図彙・羈旅漫録・鄙通辞・浮世風呂・俚言集覧・街能噂・近世上方語辞典・江戸語大辞典・大阪ことば事典)の記述を元として新たな情報(意義差など)を整備し、カード化した。 2.江戸時代を通じて資料性の安定が期待できる資料の整備をおこなった。具体的には辞書類の複写などである。 3.2.で得られた資料のうち、節用集を主要資料とした。さらに、全冊を調査するのは困難であるから、主となるべき本を選定した。この選定本によって、1.で得た各語の出現状況を調査した。 4.江戸・東京人の著した文献資料として、今回は、大槻文彦『言海』によることとし、そこに立項されているかどうか、立項されていればどのような記述をとっているかという情報を収集した。これは、文学作品などで実例をさがす前段階のものとしての作業である。 5.最終的な結論、すなわち、現代共通語形として認められた語の特徴の指摘であるが、現段階で結論をだすのは早計であるものと思慮する。今後、4.と同趣の作業を続ける必要があるものと思われた。現在のところ、これを補う作業として、ヘボン『和英語林集成』や『国定読本用語総覧』での調査の必要を考えている。
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