当該年度は、人物故事を扱った類書の中で、広く流布した『蒙求』の成立資料の可能性のある『類林』について、基礎的な書誌・諸本調査を行い、同書と『蒙求』との影響関係が立証できるか、『類林』自体も日本文学に影響していると判断できるか等の観点で研究を行った。 まず、日中における典籍中に、『類林』の書名を含む書の調査を行った所、日本書で15種、中国書で3種が確認できた(佚亡書を含む)が、現存典藉・佚文中のいずれにも、原撰たる『類林』に関する記述が見当たらなかった。また、それらの名称の出現も、撰述期の唐代よりはるか後代の近世期に頻出される故、「類林」の名称は、書名としてよりも「類聚編纂物」という普通名詞的な理解で原態から乖離した状況で広まっていたと判断した。 さらに、『類林』の書誌・諸本調査所収の故事と最古注系『蒙求』所収の故事の比較検証を行った所、両書には極めて親近度の高い内容の故事が記述されるが、必ずしも直接的な受容関係を求めるべきではなく、両書の撰述された時代状況に眼を向けるべきとの結論に至った。しかし、両書は唐代宋代の修史作業を経た後の典籍と内容を異にする記述内容を伝える点で、非常に広範かつ息の長い伝達媒体として機能していた点で大きな存在意義があるといえる。 また、調査の過程で『白氏六帖』よりも、後代に撰述された『白氏六帖』の方が、古態の記事を伝存しているという指針を得たが、その実証にはより幅広い諸本の収集が不可欠なため、これについては次年度以降の課題としたい。 なお、本年度研究の遂行にあたり、OCRソフト利用による初期入力、データベースソフト利用のデータ形成が有効であった故、『人文学と情報処理』(勉誠社)誌の研究者の連載原稿にて、次年度にその成果の一端を紹介する予定である。
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