過去の文体理論の基本概念を検証し直し、適当な枠組みに従って体系化することを目的とした本研究は、研究調書に記載した手順に従い、文体論及び関係諸分野の文献の収集、それぞれの文献の基本理念の定義、分類という形で進められた。そして、従来きわめて恣意的な概念・名称の下に分類されていた文体理論を最終的に何を目指して文体分析を行うのかという、「分析の目的」という基準に従って、まず文学的文体論(literary stylistics)、言語学的文体論(linguistic stylistics)、教育的文体論(Pedagogical stylistics)の3つに分けて体系化した(例えば、今まで生成文体論(generative stylistics)や機能文体論(functional stylistics)と呼ばれていた文体理論は、それぞれ生成文法、機能文法という言語理論を文学テクストに応用することを目的とした言語学的文体論ということになる)。また、この過程において、過去の文体研究においてはテクストが出発点かつ終着点であるということ、言い換えれば、テクストは作者が最終的に選んだ最善の言語形式を有しているということが疑うべからざる公理となっていたが、実際にはよりよい書き方の可能性は常に存在しており、ある意図が与えられた場合の、「こちらの書き方の方がより効果的である」という議論の仕方、つまり発信者の意図から出発する修辞学的なアプローチがなされていなかったことが明らかになり、近年盛んになりつつあるcreative writingに応用可能な創作文体論(creative stylistics)を4つ目の下位範疇として提唱した。
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