本研究にあっては、当初、サミュエル・ジョンソンという一個の文学者を中心として近代における批評意識の確立の過程を解き明かす予定であったが、さまざまな方面からのアプローチを試みるうちに、18世紀全般を通してある種の制度としての「文学」が誕生するにいたった経緯を実証的に論じておくべきであるという必要性を深く痛感することとなった。手がかりとして、シェイクスピア研究という「学」のなりたちを見てゆくうえでも、ジョンソン以前とジョンソン以後にいかなる相違、いかなる分岐を見出すか、より信頼性の高い根拠に立って論じてゆくことが今後の課題となろう。具体的にいえば、ジョンソンを含めて同時代の各編纂者による種々の刊本がどのような方針にしたがってかたちづくられるにいたったかを詳細に検討することなどは、基本的かつ不可欠の作業であるように思われる。今回、じゅうらいこの分野に関して断片的に論じられてきたことがらを綜合するきっかけは得られたように思えるが、一次資料をよりいっそう充実させない限り、将来の発展を望むことはできないであろう。来年度以降、さらに視点を変え、問題を掘りさげてゆかなければならない。今年度購入された図書がすべて図書館で整理をまっている段階なので、その点からいっても、本研究は今後の可能性に大きくゆだねられている。できれば、文学という一分野にとどまらず、哲学、歴史学などの状況をも踏まえつつ、18世紀ならびにその時代から現代へと続く批評史のパースペクティヴを構築したいと考えている。
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