イニゴ-・ジョーンズの宮廷仮面劇における具体的成果は、(1)遠近法を用いた書割の導入、(2)舞台装置転換の技術の開発であった。これらはともに、宮廷仮面劇という演劇形式の本来の目的に関わる意匠となっている。(1)が仮面劇の本来の目的に関わるというのは、遠近法を用いた書割は消失点に対座する位置に玉座を決定することができ、そのような観客席の構成を持つ劇場こそが国王の身体の呈示という宮廷演劇の目的にふさわしいものだったからである。一方、(2)は、ジェイムズ朝時代にジョーンズとともに宮廷仮面劇の形式的完成に功績があった劇作家ベン・ジョンソンが作り上げた仮面劇の台本の構造と一致するものであった。ジョンソンが仮面劇に導入した革新は、アンティマスクとマスク・プロパ-からなる二部構造の確立であった。国王の美徳を示すヴィジョンに先立って、克服されるべき望ましくない状態を示すのがアンティマスクである。ジョーンズが仮面劇に導入した2種類の舞台転換の装置scena ductilisとmachina versatilisは、アンティマスク部分からマスク・プロパ-部分への移行を大がかりな舞台装置の転換によって分節化する機能をはたしたのである。こうしたことは、演劇に導入された技術革新が政治的含意を持ち得ることを示し、オ-レリアン・タウンゼンドやウィリアム・ダヴナント、ジェイムズ・シャーリ-らがジョーンズの主導のもとチャールズ朝時代に制作した仮面劇の台本の露骨な政治性とともに、演劇が持つ政治性の一端をうかがわせるものである。
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