研究概要 |
本研究は派生名詞の項構造の性質を、基体の動詞の統語的及び意味的性質との関連で研究することを目的としたものである。特に英語を母語とする子供の文法獲得の過程を視野にいれ、そこから得られた情報をもとにより一般性の高い規則性を導きだすことを目指したものである。本年度は、関連する文法獲得過程の事実調査を行うことが中心となった。具体的には、CHILDES(自然状況における子どもの発話が縦断的に収集された発話資料集で、Camegie Melon UniversityのBrian Macwhinney氏らによるプロジェクトによって、コンピュータ検索が可能なかたちでCD-ROM化されたもの)におさめられているWellsの資料(1才6か月から5才0か月の32人のイギリス人の子どもを対象)に基づき次のような調査を行った。 1.-ment, -tion, -ingなどの接辞のついた派生名詞の生起について: 動詞を基体とする派生名詞は接辞の種類にかかわらず、当該の時期の子どもの発話にはあらわれていない。-ing形の派生名詞は、成人文法においてはof句を伴って、一般に項構造の継承が生産的に行われるものと考えられているが、この時期の子どもの発話には-ing形の派生名詞自体あわれていない。 2.(1)属格名詞(N1+'S)+主要部名詞(N2)の形で生起するとき、N1とN2との意味関係 (2)名詞+of句 の形で生起するときのof句の意味的役割 基体の動詞のもつ項が派生名詞句においてあらわれる場合は、主語は属格名詞として、目的語は普通of句として統語的に実現される。しかしながら、まだ動詞からの派生名詞自体があらわれていない段階では、属格名詞は主要部名詞に対して所有者-所有されるものの関係で、またof句は典型的には'a cup of water'の様な数量表現に生起するのが一般的で、of句が名詞に対して後続修飾の関係になっている例はまれである。
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