1.エリオットの同時代人の文化人類学者E.Bタイラーおよびフレイザーの著書から宗教と呪術の区別についての考え方を知ることにつとめた。エリオットもその認識を共有していたと思われるからである。タイラーは概して、進化論的な観点から、呪術と宗教の区別を捉えているのに対し、フレイザーの場合キリスト教対他宗教の関係を優劣でとらえることなく、キリスト教と他の原始宗教の構造的類似性を明らかにすることで、キリスト教中心的世界観に打撃を与えることになった。彼らの研究は、エリオットらの世界観に大きな緊張をもたらし、詩の世界を断片化することになった一因ではないかと思われる。 西洋の文化のなかで、キリスト教とは区別される宗教・神話を取り入れた芸術の一ジャンルとしてオペラにおける神話(特にギリシア神話)の取り扱い方を研究した。オペラにおける呪術性は言葉と音楽のむすびつけから、特にある主題の反復(ワーグナーのライトモティーフがその顕著な例である)へと「進化」をとげるが、それらはいずれも感情を高める効果がある。ワーグナーの場合、自らが神話を再構成しているわけで、その観点から考えると『荒地』にワーグナーが引用それていることの意味の一つが明らかになろう。 3.また、ギリシア・ローマから伝わるジャンルとして牧歌やパストラルを考察した。これはキリスト教以外の宗教と関係を持ち、なおかつ文学の一ジャンルとして、詩にオペラに様々な形で取り入れられているからであり、エリオットの『荒地』は、パストラル・エレジ-としての一面を持つことが、エリオットに先行する詩人たちとの関連およびコンヴェンションの点で、かなり確認できたように思う。
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