研究概要 |
私は平成2年から4年まで3年間奨励研究(A)科研費を得て「中世文学に於けるゲルマン的要素とラテン的要素の対決と統合過程に関する研究」を行い,既報告の通りの成果を得たが,この中でゲルマン概念の再検討という学問的課題に到達した.古典古代の民族誌・中世ゲルマン文学・ゲルマン比較言語学という3つの学問的基礎を統合する上に成立した近代ゲルマン概念は、第1に最新の研究成果に従って発展させられるべきであり,第2に現代では学問的に克服された方法論・理念からの影響を払拭されねばならない.本研究はこの様な問題意識の上に中世文学研究に於ける研究対象・方法の両面でゲルマン概念の再検討を行い,近代ドイツ人文諸科学の根幹を問い直すと同時に,ゲルマン言語文化に新たな光をあて,言語と民族と国家に関しより科学的な理解を得ることを目的とした.本研究は従来のゲルマン概念に至る研究史を批判的に総括しつつ,ゲルマン概念の基礎を構成する3分野の史料を新たな視角から客観的に考察することを基本方法とした. 特に今年度本研究が注目したのはドイツ語史におけるゲルマン概念の再検討であり,ゲルマンの言語意識や言語文化ブロックの歴史的変容を現代ドイツ語にまで追跡調査することであった.成果として本書類裏面記載の通り2論文を得たが,この成果を通じてゲルマン概念と同時にドイツ概念の再検討という課題にも逢着した.凡ヨーロッパ的中世文化像を探りつつ近代的民族問題に迄至る視野を獲得する為に伝統的な比較言語学の成果や方法を発展させ,社会言語学やコミュニケーション行為論の成果を取り入れ,言語共同体の生態から近代科学の諸分野を統合する総合的言語文化史研究を確立・発展させらべきであるという本研究の基本的問題意識を更に発展させ,ゲルマン概念の再検討からドイツ概念やヨーロッパ概念の再検討にまで研究を進めるべく,平成6年度も同一テーマで奨励(A)科研費を申請中である.
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