研究概要 |
本年度の研究では特に第1言語(日本語)の破裂音の無声部分の長さというかぶせ音素の対立が第2言語習得に与える影響について実験を通して考察した。実験に用いた音声刺激は、kaQko(括弧)/kako(過去),kaQke(脚気)/kake(賭け)という2組の有意味語の対立とaQpa/apa,aQta/ata,aQka/aka,という3組の無意味語の対立である。録音には、DATレコーダ(SONY DTC-59ES,SONY DIGITAL TAPE-CORDER TCD-D3)を使用し、これをNTTアドバンステクノロジ株式会社の音声工房、ワールドポイント社の音声分析システムを用いて分析した。これにより日本人の日本語における単音と促音との生成の有力なparameterは先行母音と閉鎖部分との時間的な比率であることが確認された。更に、分析した有意味語の音声刺激を元に、単音から促音へと10msずつ変化する刺激列を作り、これを元にして本校の1年次学生を対象に聴取実験を行った。この結果、単音/促音の判断の1次的な手掛かりは生成の場合と同様に先行母音と閉鎖部分の時間的な比率であることも確認されたが、しかし先行母音の減衰の仕方等の質的な情報が2次的な手掛かりとなっている可能性も示唆された。これらの実験を通して、日本人の日本語の単音/促音の発話/聞き取りの際の境界を実験的に求めることができた。これを元に、彼らの母国語における判断境界が、英語学習にどのように影響しているかを見るために次の実験を行った。日本語の単音/促音の対立を許す英単語の組(netting/better,happy/capital等)を用いて発話させたものを同様に分析した。その結果、今回の被験者の場合には、日本語における単音/促音の境界を保持したまま英語発話を行っている傾向が伺われた。今後は、同時に録音を行った「北風と太陽」の英語版の発話分析を行い、そのinter-stress intervalの平均値、あるいはばらつき具合と彼らの単語レベルの発音が示す日本語音韻体系からの影響との関係を更に考察する予定である。
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