ロシア共和国内シベリア地域には系統の異なる言語が多く分布している。これら諸言語はその話者である諸民族の移動に伴い、複雑に接触を繰り返して今日に至っている。これらの諸言語間の系統を越えた類似性は語彙のレベルだけでなく、音韻、形態、統辞等の広範なレベルに及んでいる。本年度はこれら言語接触に起因する可能性のある類似点について、特に「膠着性」に着目して研究した。類似点から発して逆に個々の系統に属する特徴の反映にも注目すべき点があった。本研究においては特にこの地域の諸言語に比較的短期間に集中的にしかも均質な接触を持ったロシア語からの語彙の借用形態をスケールとすることにより、シベリアに分布する諸言語間に「膠着性」の程度において言語帯とも言うべき段階性が見られることを示した。具体的には主にチュルク諸語とツングース諸語を中心に研究を進めた。シベリアを言語地域として様々な観点からの言語接触の研究をすすめる上での一視点をあげることができた。その成果は第43回日本ロシア文学会全国大会(於・神戸市外大1993・10・22)において「シベリアの諸言語におけるロシア語受容」という題で発表した。現在、このテーマに関連した論文を準備中である。尚、上記のチュルク語とツングース語の接触の結果成立したと考えられる北西シベリアに分布するドルガン語についての著作を公表する機会を得、多角的に研究を進めることができた。今年度の助成金により研究上、たいへん有益な研究会や打ち合わせに参加し、また資料収集も順調に行えた。今年度の成果を踏まえて今後もさらに多様なアプローチでシベリアの諸言語を扱っていきたい。
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