1.社会福祉を基礎づける既存の代表的議論として、次の5つを抽出した.社会福祉は、体制維持の見地からは、(1)市場競争での弱者の救済による自由市場体制の維持・安定化や、(2)社会的経済弱者の救済による現在の政治社会体制の維持・安定化のための手段として基礎づけられ、功利主義的観点からは、(3)効用上の不平等の是正を通じた全体効用または平均効用の最大化と考えられ、さらに経済学的には、(4)民間の保険のより良き代替装置として理解され、そして公民的友愛主義からは、(5)公民的共同体での友愛に基づく互助の制度とされる。 2.各々の基礎づけ論は自己帰属原理と次のような関係にある。(1)・(2)は、自己帰属原理が妥当する自由社会の体制の安定化手段として社会福祉を捉える。功利主義では、社会福祉も自己帰属原理も社会的効用を最大化する制度だとされるから、(3)と自己帰属原理との対立は理論上は、同一目的のための異なる手段間の緊張であるが、実際には前者は後者を堀り崩しうる。(4)自己帰属原理の原理的な妥当を前提しつつ、戦略的にそれを制約するものである。(5)は、公民的友愛主義が経済的平等主義を志向する場合には自己帰属原理と対立する。 3.各議論は次のような問題点を抱えている。(1)・(2)は社会福祉事業の受益者を尊重と配慮の目的とは認めず、むしろ体制の安定化にとっての可能的障害とみなしている。(3)は効用以外の要素を考慮から外すから、不公平な帰結をもたらす威があり、また(4)は壮年健常者の観点から受益者を眺めるものに他ならない。(5)は不公平な帰結や壮年健常者中心主義を免れているが、ボランティア活動に期待しすぎている。 4.以上を踏まえて、(6)国家を一種の共同体と理解した上で、その構成員が相互に負う抽象的配慮義務の制度化として社会福祉を捉え、配慮義務は自己帰属原理を制約して公的負担による福祉事業を基礎づけると考えたい。
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