法典調査会の資料に基づいて、明治期における商法改正の立法過程をさぐったが、明治期においては、資産にどのようなものが含まれるかについて十分には意識されていなかったと推察された。昭和37年改正にいたって資産概念が注目されたが、公表された資料からは、直観的に資産概念がとらえられたにすぎず、何らかの枠組みにしたがうというより、政策的に決せられたといえる。他方、アメリカ、オーストラリア、イギリスおよびIASにおける資産概念をめぐる議論を資料から分析し、次のような結果を得た。すなわち、アメリカにおいては、発生の蓋然性が高いことが資産であるための要件とされているが、イギリス、オーストラリア、カナダおよびIASにおいては要件とされておらず、貸借対照表上認識するための要件にとどまっている。注記において開示することが情報提供の見地から必要とされることから、イギリス等の要件を日本における商法計算規定の資産概念の把握にもとりいれることが解釈論として妥当である。また貸借対照表上認識することは配当可能利益に反映されることから発生の蓋然性が高いことが認識基準としては求められよう。 しかし、繰延資産、いわゆるオフバランス項目等に含まれる個別の項目については研究をすることはできず、次年度以降の課題となっている。すなわち、資産とされるための一般的要件と個別の項目の特殊性をふまえたあてはめ、検討は平成6年度から行いたい。
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