今回の研究においては、フランス労働協約法の基本思想を探求するための一段階として、労働条件決定における労働協約の位置・役割を国家の協約政策の変遷という側面から明らかにすることを目的とした。そのための作業として、まず、近年の労働条件決定システムの変容がもたらしている諸問題を分析した。つまり、1982年オル-法以降の企業内団体交渉および企業協約の強化などにより協約内での企業協約の比重が高まっていること、さらにいわゆる特例協定の導入が、法と労働協約の関係のみならず労働契約と労働契約の関係にも影響を与えうることが明らかになった。ただこの後者については、現段階ではまだ問題点の指摘がされてはいるものの具体的な展開を見られず、引き続き新たな資料を収集していくことが必要である。つぎに、この変化をとらえるために、労働協約の締結・適用をめぐる論点を学説を中心に整理してきたのであるが、ここでは必ずしも一般論のレベルで議論されているわけでなく、むしろそれをめぐる個別的解釈論の検討が必要になってきた。 これらの経過から、今後はまず、労働協約と労働契約の関係について、有利原則の範囲、協約労働条件の放棄の可能性、協約失効後の労働条件などの具体的な個別的解釈論を、すでに収集した判例および学説を素材に検討していきたいと考えている。 当初計画していた法政策史的側面からの分析については、立法資料の収集・整理をしている段階であるが、当面は先の個別的解釈論の検討を優先したいと考えている。
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