本研究においてはまず基本的な3種類のデータの収集作成を行なった。その1つは中国の商品分野別の輸入額とそれぞれにおける日本のシェアである。2つ目は中国の分野別直接投資受け入れ額とそれぞれにおける日本のシェアである。3番目は同じく中国の分野別技術導入額とそれぞれにおける日本のシェアである。これらは『中国海関統計』、『中国対外経済貿易年鑑』、アジア経済研究所データベースを利用して収集された。収集対象期間は1984年から1991年までである。これらのデータを用いた分析によってまず分野別の直接投資と技術導入の相関が近年低下しているという結果が得られた。従来は補完的であった両者の関係が代替的なものに変化しつつあることを示唆する結果である。次に分野別の日本の商品貿易シェア、直接投資シェア、技術導入シェアを世界輸出における日本のシェアで説明するという回帰分析を実施した。この説明変数は日本の比較優位を表わす指標である。まず、世界輸出市場におけるシェアと対中国の輸出シェアについて従来は弾性値が1以上であったのに対して近年この値は低下の一途をたどり、1以下になってしまっていることが明らかになった。中国市場で日本の比較優位構造が反映されにくくなってきているのである。直接投資、技術導入についてはそうした現象は見られなかった。次に最近3ヵ年について同様の分析を試みたところ、技術輸出に関する弾性値は商品貿易に関する弾性値より大きいという結果が得られた。日本が比較優位を有する分野は商品輸出よりも技術輸出で中国市場におけるシェアを高めているという、通説とは異なる結果である。また、直接投資に関しては有意ではないものの弾性値がマイナスとなった。比較優位を失った産業が直接投資によって中国へ出ているということを示唆している。以上本研究によって得られた興味深い結果についてその要因を究明することを今後の課題としたい。
|