本研究は、1980年代におけるアジアNIESおよびASEAN諸国の急速な工業化をもたらした要因を、日本を含めた東アジア地域における貿易関係の変化から明らかにすることが狙いであった。研究の過程で明らかになったことは、第一に、日本、アジアNIES、ASEAN間において、工業製品における水平分業が80年代に急速に進展し、これら諸国間において相互に需要と供給を拡大する体制が進展していることである。これを各国の貿易統計にもとづいて産業内貿易指数を算出し、明らかにした。第二に、この水平分業の進展はこれらの諸国における急速な工業化を実現したが、各産業ごとの産業内貿易指数を検討すると、とりわけASEAN諸国においては特定産業に集中した工業化の実態が明確になり、これが一般にいわれているような、順調な工業化の過程ではかならずしもないことが明らかになった。第三に、この水平分業の進展は、日本多国籍企業の企業内国際分業の進展の過程で実現していることを、日本の海外投資統計から算出することによって明らかにした。そして、このことがもたらす結果として、NIESにおける直接投資の停滞と、輸出の伸び悩み、輸入の急増が起こり、輸出主導型成長が困難になっていること、ASEAN諸国においては多国籍企業に依存した工業化が企業の投資行動の変化によって行き詰まりつつあることを明らかにした。以上の点が本研究によって新たに得られた知見であり、これに基づいて研究発表論文を現在準備中である。今後はさらに、日本の多国籍企業だけではなくアメリカ多国籍企業の対アジア投資との関連で、東アジア地域における国際分業に与える影響についても解明する予定である。
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