まず、近代日本経済において副業労働が就業形態のなかで重要な位置を占めていた事を、先行研究のサーベイから確認した。そのうえで、織物業を事例に一次史料にもとずいて、労働過程の特色を検討するべく、データ処理を開始した。膨大なデータゆえ、中間的な集計結果ではあるが、以下の注目すべき論点が浮かび上がってきている。 (工賃) 反当たりの工賃水準は1896-1917年では停滞的(1903-1905年は低落)で、第一次大戦期に急騰した後、1920年代には戦前水準を僅かに上回る程度に低落した。日露戦後期に上昇傾向を認められない点は、工場化の進む地域と相違しており、賃金動向と家内労働形態の存続との関係が問われるべき論点として浮かび上がってくる。又、埼玉県統計書の「機織・女」の日給データは滝沢家の反当たり工賃水準を一貫して上回っているが(データの得られる1916年以降)、それが織物工場の賃金であれば(その可能性は高い)、賃織の賃金水準は織物女工のそれに比して低位であったことが指摘出来よう。従って、副業労働の存続は、賃金以外の要因-家内労働への指向性-から考察される必要があろう。 (季節変働) 賃織への発注、反当たり工賃は季節によって大きく変動し、かつ両者は逆相関を描いている。賃織と農業労働の関連が明瞭にうかびあがっているといえよう。ただし、変動幅は時期が下るにしたがって縮小する傾向を見せていた点にも留意すべきである。家内副業と農業労働との関係の時期的変化が論点となろう。 以上の分析結果から、副業・家内労働形態での就業は、個々の農家の農業労働、さらには家事労働を含む農家再生産に要する労働需要全体との関連のなかでの検討が必要となってくると思われ、今後、家族ライフサイクル論等の視点も加えつつ、結果の分析と解釈を完成させていくつもりである。
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