経営組織の設計問題を意思決定過程の数理モデルを使って解析的に研究すると拙著Design of Adaptive Organizationsにあるように、短期的適応過程モデルでは統計的決定理論の逐次分析モデル、さらに長期的適応過程として、March&Simonの示唆するような学習モデルを取り入れる形で、部分的に観察可能なマルコフ決定過程(POMDP)のモデルへと拡張することができる。実は、こうしたモデルは数理的学習理論のモデルと同一であり、POMDPはもともと数理心理学者によって研究され、そのモデルは基本的にはオートマトンのモデルと同等である。 今回の研究計画では経営戦略の形成プロセスをこうした組織学習的な観点から分析することを意図している。しかし、組織学習を数理モデルとして解析的に分析することには、テクニカルな意味で限界がある。そこで、Marchらのゴミ箱モデルをより簡便にしたシュミレーション・プログラムSingle Garbage Can Program(SGCP)を開発した。その結果、拙著『ぬるま湯的経営の研究』で着手された組織の計量的研究の成果を踏まえて、経営組織の中で経営戦略が形成されるプロセス、経営戦略の果たす機能について、より複雑な集団的学習のシュミレーションをSGCPを使って行うことができるようになった。具体的には「やり過ごし」「見過ごし」といったゴミ箱モデル的決定スタイルと経営戦略との関係を理論的に解明することができた。このSGCPを使ったシュミレーション分析の一部は、拙著『組織の中の決定理論』の中で発表した。
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