研究概要 |
本研究の目的は日本の企業組織で働く技術者が企業内でたどるキァリア・パスのパターンとそのパターンが技術移転および蓄積に及ぼす効果を実際のデータを用いて明らかにすることであった。この目的のためにまず簡単な文献レビューと企業人へのインタビューを行った。これらの予備的な調査の結果,実証研究の対象となる候補企業が徐々に明確になり,最終的には化学系技術と組立系技術の両方の技術ベースをもつ大規模企業の人事データを活用させてもらうことになった。データは,昭和30年入社と35年入社,40年入社,45年入社の4つのコホート(同期集団)について,それぞれの技術者の最終学歴やこれまでに経験した職務,最終到達職位,取得特許件数などを含んでいる。これらのデータを綿密に分析した結果,いくつかの新しい知見を得ることができた。まず第1に,一般に信じ込まれている日本企業における技術者のキャリア・パターンがある程度確認された。多くの技術者は,基礎研究からキャリアをスタートさせた後に工場における生産工程の担当や営業部門への異動を経験していた。しかし第2に,これまであまり注目されていなかったキャリア・パターンもまた発見された。すなわち基礎研究から工場に異動した後に,約3割の技術者は再び基礎研究に異動しているという事実である。さらに第3に,これらの基礎研究へ戻っていった技術者が最終的に組織内でより上位の職位に早いタイミングで就任していることも発見された。まだ定性的なデータのみでしか確認されていないが,これらの基礎研究と工場現場の往復によって日本企業のいくつかの企業が生産技術のみではなく,基礎的な研究開発能力を高めてきたように思われる。
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