資産評価理論のひとつであるAPT(裁定評価理論)において、まず、検証可能性についての議論の整理を行った。特に、ShankenとDybvig and Rossの応酬について、Shankenが適切な因子構造の特定化について、RollのCAPMに対する批判がAPTに対してもあてはまることを主張した点、均衡-APTのとらえ方、因子構造を適用できる範囲等に関して検討を加えた。また、因子構造について、Chamberlain and RothschldとIngersollの議論を中心に、近似因子構造が一意的に存在するための条件、主成分分析の理論的根拠、因子構造における因子の選び方、個数について考察を行った。すなわち、資産収益の共分散行列の固有値の問題の、共通因子の部分と個別リスクの部分とにどのように分解されるかという観点からの検討である。こういったことにより、APTの構造を掘りさげるとともに、APTとCAPMやオプション理論との共通点と相違点を明らかにし、理論を統合する基礎に近づくことができたと考える。また、動学的理論への発展については、今年度の研究では十分に深めることができなかったので、これまでの成果をもとに確率論等の応用により、新たな理論モデルの構築へ進めるとともに、実証研究の具体例も考察してゆきたい。 今後の研究の課題として、現実面への応用を目指して、制度論に関してさらに探究を深めたい。また、オプション、先物取引の増大とともに実務面にも踏み込みたいと考えている。
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