(1)公認会計士(CPA)は、本来、一定の契約に基づいたサービスの提供における債務不履行(契約違反)や、当該サービス上の瑕疵(不法行為)に起因して、常に損害賠償訴訟を提起されるリスクにさらされている。特に訴訟社会といわれるアメリカにおいては、その生来的特徴が顕著に現れており、「平和な環境」に慣らされた我国会計士業界とは大きな差がある。 しかしながら、最近になって、日米構造協議で職業会計士市場の解放問題が採り挙げられたり、商法改正によって監査人の法的責任が追求される土壌が整備されたことに伴い、我国のCPAにも「訴訟の嵐」に巻き込まれる前提条件が備わってきた。そして、ボーダーレス化した資金調達のより一層の促進と、それに伴う監査報告書の国内指向から国際的流布によって、国外株主からの我国監査人の責任追求も容易となった。 (2)以上のような視点から、現在まで研究を行なってきたが、特にCPA訴訟ではかなり先を行くアメリカの判例を採り挙げて研究した。その中で、アメリカの会計事務所はその損害賠償負担能力の相対的大きさ(ディープ・ポケット)によって、被損当事者(原告)の標的にされてきた事実があった。 しかし、いかんせんアメリカにおいて、判例として顕在化するケースはCPA訴訟のなかでも半数に満たず、その半数以上が和解等の裁判外の手続によって解消されている点を重視し、特に平成5年度分については、前段階として検証してきたコモン・ロ-責任を前提に、職業会計士がどのような訴訟戦略を採り得るのかについて検証した。 (3)具体的には、コモン・ロ-と監査論上の争点という両専門分野における知識に基づき、アメリカにおいて社外監査人に賦課されてきた法的責任の流れを把握し、被告となり得る会計事務所にとって有効な訴訟戦略-和解と訴訟のいずれを選好するかの意志決定プロセス-について、確率・機会コスト・期待値を構成要素とする「意思決定ツリーモデル」を用いて明らかにした。
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