本研究の目的は、完備・非コンパクトリーマン多様体の幾何学的構造を、その無限遠点から成る理想境界上の情報を用いて特徴付けることであった。このように多様体の大域的性質をより扱いやすい性質で特徴付けるという試みは、理論を応用する上で重要なことである。 無限遠点とは多様体上の半直線の同値類として定義されるものであり、この無限遠点の集合である理想境界は、Tits metric と呼ばれる距離関数により距離空間となっている。この空間の位相がコンパクトである場合には、考察対象の多様体の距離を定数倍することにより得られる多様体の列が、定数をゼロに近づける時、その多様体の理想境界上の円錐に収束することを示すことができる。 Tsukuba Journal に掲載予定の論文“Rigidity of compact ideal boundaries jointed by Hausdorff approximations"では、研究実施計画の方針1に従い、このことを利用し、コンパクトな理想境界をもつ多様体間のハウスドルフ近似がそれらの理想境界上の等長写像を誘導することを示した。 更に、アダマ-ル多様体においては、理想境界が非コンパクトな場合も含めた、より詳しい多様体間の近似写像と理想境界上の等長写像との関係についての結果が得られ、論文“Rough isometries on Hadamard manifolds and their ideal boundaries"をまとめたところである。今後とも、さまざまな角度から、非コンパクトな多様体の大域的性質の特徴付けを理想境界を用いて試みたい。
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