非過逆な力学系に於ける安定性予想を解決することが現在の主目的である。昨年度までに、特異点を持たない力学系に対して、安定性予想が正しいことを示していた。本年度の研究は、この結果に対して出来る限り特異点に関する仮定を弱めることを目的としていた。 安定な写像の構造を調べるとき重要な働きをする結果にclosing lemmaがある。このclosing lemmaは特異点を持ってもその個数が有限個である写像に対して、L.Wenによって示されている。しかし、この条件は非常に強いものである。本年度の成果の一つとして、この条件を"非遊走集合の中に特異点が存在する場合その個数は有限個である写像に対して"と弱めることができた。 この結果により、安定性予想を周期点が特異点である場合その周期点は沈点であるような写像に対して考えることが出来るようになった。この仮定の下で次の結果を得た。 1.C^1写像が逆極限OMEGA-安定である必要十分条件はその写像が公理Aを満たしサイクルを持たないことである。 2.C^1写像がOMEGA-安定である必要十分条件はその写像が特殊公理Aを満たしサイクルを持たないことである。更に、上記の結果を得るために次のことも示した。以下の結果は特異点に関する仮定を必要としない。 3.公理Aを満たしサイクルを持たないC^r写像全体の集合はC^r位相の下で開集合である。 4.特殊公理Aを満たしサイクルを持たないC^r写像全体の集合はC^r位相の下で開集合である。 1と2の結果の中の仮定は、closing lemmaを用いるときに必要とする条件である。従って、closing lemmaを特異点に関する仮定なしで得ることが出来れば上記の結果も仮定なしで得ることが出来る。
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