非線型のシュレディンガー方程式やクライン・ゴルドン方程式に代表される古典場の偏微分方程式は場の量子論の正当性を根底で支える理論的な拠り所であるばかりでなく非線型偏微分方程式論全般からみても重要な数学的対象である。本研究に於てはこれらの代表的な方程式に対する散乱問題を扱った。不思議なことに物理に登場する重要な方程式の多くは解の漸近解析に関し既存の数学的一般論では丁度扱うことの出来ない境界に位置する。具体的に云えば1+1次元の三次非線型性や1+2次元の二次非線型性に従う場は時間無限大に於て漸近自由場にはならない。本研究では線型理論との類推から位相の歪みを記述するドラ-ド型の修正漸近自由場とは如何に定義されるべきものであるかという問題の考察から始まりその修正漸近自由場に収束する解を構成せよという問題を最終的に解くという定式化に基づいて非線型遠距離散乱の理論の基礎を確立した。位相函数はフーリエ変換を媒介とし擬微分作用素として導入されるべきものである一方元の方程式に戻って考察すればある種のハミルトン・ヤコビ方程式を満足することが必要となる。この厳密解として位相函数を定めるのも一方法であるが本研究では漸近状態によって具体的に表し得る近似解を導入し時間無限大での近似度を非常に取扱い易い条件に置き換えた。修正波動作用素はこの修正漸近自由場に対する摂動方程式と見做される特異積分方程式を縮小写像の方法で解くことによって定義される。非線型散乱問題に於てこのようなプログラムを提出し実際に解いてみせたのは始めての試みであった。更にこの方法は応用が広いことも確認されその他の方程式にも適用できることが解明されつつある。
|