本研究では、無分散KP系と佐藤のKP系の理論の対応を基礎として、そのA型Gauss‐Manin系との関係について研究を行った。具体的には、素粒子物理学における位相的弦理論と、2次元重力理論との対応が、丁度KP系とその無分散(準古典)極限の対応に相当することを明確にした。ここで位相的弦理論としては、一般化されたKontsevich型行列模型を考え、また、2次元重力理論としては、A型Landau‐Ginzburg模型を考えている。一般化されたKontsevich型行列模型がKP系の特別な解を与えることは、Kontsevichらによって知られていた。本研究によってこの特別な解の時間変数を適当にrescaleすれば、準古典極限を持つことがわかり、さらにその極限(これは無分散KP系の解である)をsmall phase spaceと呼ばれるところに制限することによって、それがA型Landau‐Ginzburg模型から得られるGauss‐Manin系の解を与えることがわかった。 これは、約十年前に石浦-野海によって指摘されていたKP系とA型Gauss‐Manin系の関係を物理的観点から説明することになる。この事実から、A型以外のLandau‐Ginzburg模型に対応する可積分系は、何らかの行列模型から得られるであろうという確証が得られた。また、「一般化されたKontsevich型行列模型は、Riemann面のmoduli空間(のDeligne‐Mumfordのコンパクト化)の上のある種の交点数の母関数を与えるであろう」というWittenの予想に対して、一つの裏付けを与えるものになっている。
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