まず尖点付きリーマン面のタイヒミュラー空間の大域座標系の導入について新しい発見があった。面上にいくつかのホモトピー類を与えて、それに含まれる双曲的計量での測地線の長さを用いてタイヒミュラー空間の大域座標系を与える研究が多くの研究者によってなされてきたが、これまでのところは大域的座標系を与えるために必要な測地線の最小個数を求めよというSeppala-Sorvaliの問題に関心が多く向けられていて、座標空間を具体的に表現するということはあまりなされなかったように思う。私とフィンランド・ヘルシンキ大学のNaatanen氏は共同研究によって別の双曲幾何学的量による座標系を用いてタイヒミュラー空間の実代数的表現を既に求めていたが今年度の研究のなかで以前から調べていた座標系と閉測地線の長さとの関係式を導き出すことに成功し、このことから測地線の長さによる座標系についてもホモトピー類をうまく選べばやはりタイヒミュラー空間の実代数的表現が得られることがわかった。研究内容の概略を京都大学数理解析研究所における「双曲的三次元多様体の複素解析」研究集会で講演し、更に同研究所発行の講究録において印刷物として発表する予定でもある。上記の結果の他に写像類群と不定方程式の整数解との関係、種数2の閉リーマン面のタイヒミュラー空間についても研究を行なった。閉リーマン面のタイヒミュラー空間については実半代数的表現をもつが、代数的表現をもたないだろうというのは今後の問題として興味深い。
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