今年度は、主としてWKB解析の立場からのPainleve方程式の研究を行った。まず、Painleve方程式に対して、(大きなパラメータに関する)形式巾級数解のみならず指数函数型の摂動項を持った形式解が存在することが見い出された。これらはいずれも、線型方程式の場合のWKB解に相当するものである。特に、後者の形式解を用いて、最も簡単なPainleveI型の方程式について、形式巾級数解の接続公式(即ち、Stokes曲線を越えた場合に起こるStokes現象を記述する公式)を具体的に表現することが可能になった。更に、他のPainleve方程式に対しては、その形式巾級数解とPainleveI型方程式の形式巾級数解との間にある種の変換論が成立することが示された。その証明において、Painleve方程式と線型方程式のモノドロミ-保存変形との関連が本質的な役割を演じている。この変換論(あるいはその精密化)を利用すれば、全てのPainleve方程式について形式巾級数解の接続公式を決定することが可能であろうと期待される(現在、研究が進展中)。いずれにしろ、“Painleve方程式に対するWKB解析"という理論の枠組は、ほぼ明らかになったと考えて良いと思われる。 他方、Painleve方程式の一般解をWKB解析の視点から取り扱うこと、特にその接続公式を求めること等、残された課題も少なくない。これに関して、現在、モノドロミ-保存変形との関連に基づいて、PainleveI型方程式についてその一般解の第一積分を近似的に求めたKapaevの仕事の精密化に取り組んでおり、ほぼ成功したといえる段階である。これがどういう重要性を持つのか、現時点ではまだ明らかではないが、少なくとも上述の問題、更には(そこで必要となる二重変わり点を持った線型方程式の解析を通じて)WKB解析の理論の基礎づけに対しても、何らかの進展がもたらされたことは間違いないであろう。
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