値分布論においては、通常は像空間の余次元1の部分集合の正則写像による逆像について研究がなされているが、この理論の創始者であるNevanlinnaの予想を発端にして、ある正則写像とそれよりもある意味で増大の速度の遅い正則写像の集まりについての値分布についての研究がなされてきた。この増大の速度の遅い正則写像たちを、最初の正則写像の動標的ということにする。私は今まで、正則写像の動標的に対する値分布について、特に、第2主要定理について研究してきたが、それの応用として、どのようなことができるかを考えてみた。その一つとして、例えば、4つの値の逆像が重複度も込めて等しい2つの有理形関数が互いに他の1次分数変換であるという定理の動標的への拡張が得られた。これは、2つの有理形関数と4つの動標的の差の零点がそれぞれ重複度も込めて等しいときに、この2つの有理形関数は互いに他の動標的係数の1次分数変換になっているというものである。しかしながら、5つの値の逆像が等しい2つの非定数有理形関数は一致するという一意性定理の動標的への拡張は得られなかった。この問題については、他の研究者によって、もう少し条件を強めた拡張が得られているが、その証明法は、オリジナルの定理のものとは違っている。元々この定理は、ある種の第2主要定理から簡単に導かれるものではあるが、動標的に対するその種の第2主要定理は未だ証明されていない。また、この理論はBrodyの定理とBorelの定理の関連から、双曲的多様体論にも応用されることが分かった。
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