粘性の影響は考慮するが、非圧縮で等温であると見なせるいわゆる非圧縮性粘性流体に対する自由表面問題に対しては現在までにいくつかの結果があるが、圧縮性および熱伝導性をすべて考慮した流体がニュートニアンの場合の最も一般的なモデルと見なせる圧縮性粘性熱伝導性流体の自由表面問題はその方程式系の複雑さゆえに全く手つかずの状態だった。今回の我々の研究で時間局所解の一意存在およびある平衡状態のまわりでの時間大域解の存在という二つの基本的な解の存在定理が得られたということは今後のこの分野における研究に対する寄与という観点からもきわめて意義深い。数学的には、時間局所解の構成に際しては、従来のアイデアに従って問題を初期時刻の与えられた領域におけるものに変化していわゆるラグランジェ座標系で考えるが、非圧縮性の場合と異なり今の場合方程式系が縮退した双曲型-放物型をしているために、その線形化した方程式系を解くところに従来にない我々の新しい工夫がある。時間大域解の存在定理に関しては、証明のために必要なアプリオリ評価を求めるために今度は問題を平衡領域に変換して線形化問題の評価といわゆるエネルギー法をもちいるが、この方法は速度ベクトルよりも高い自由表面のなめらかさがえられる表面張力を考慮する場合のみに有効である。現在はひき続き、えられた時間大域解の漸近挙動(解の減衰のオーダー)、時間によらない定常解の一意存在とその安定性および表面張力の影響を無視した場合の時間大域解の存在について研究中である。
|