研究概要 |
本研究では,脳波データや株価データなど従来の定常線形時系列モデルの枠内では解析できない非線形現象を記述するための非線形時系列モデルの構築および,その非線形時系列モデルの確率論的性質やパラメータ推定に関する研究を行なった. 非線形時系列モデルの確率論的性質に関しては,定常条件を求めることが重要になるのだが,マルコフ連鎖の安定性理論を適用することにより,従来から提案されているbilinearモデル,thresholdARモデルやexponentialARモデルなどを始め,供給と価格における非均衡市場モデルから導出される新しいマルコフ型非線形時系列モデル(simultaneously swichingARモデル)の定常条件を求めることも可能になり,マルコフ連鎖の安定性理論が非線形時系列モデルの研究に大いに役立つことがわかった. パラメータ推定に関しては,bilinearモデルに対して,高次のモーメントの情報を利用したモーメント推定と最小二乗推定の研究を行なった.モーメント推定量に関しては,本研究で漸近正規性を持つ条件を与えた.また,シミュレーションにより,理論的結果とデータ数の関係も調べたが,大標本理論が適用できるデータ数は少なくとも2,000〜3,000程度が必要で,実用上モーメント推定が利用できる場合は,データ数が比較的大きい場合限られることもわかった.最小二乗推定に関しては,実際の脳波データや株価データに対して推定を試み,線形モデル(ARMAモデル)よりもbilinearモデルの方がモデルの当てはまりが良いという結果を得た.また,シミュレーションで最小二乗推定量の性質を調べた結果,データ数が300前後でかなり安定した推定値を示し,応用上有効であることが確認された.最小二乗推定量の理論的性質に関しては,今後の課題である.
|