溶融AgCl、AgBr、AgIと溶融塩混合系Ag(Br0.5I0.5)について初めてXAFS分光測定を行い、AgとIのK吸収端についてXAFSスペクトルを得ることに成功した。測定は高エネルギー物理学研究所放射光実験施設のBL14Aステーションにて行った。測定には石英ガラス製の試料容器を製作し用いた。設備備品として購入したXステージ等の光学機器に取り付けられた電気炉に試料容器を固定し、溶融試料を透過する前・後のX線強度を測定しXAFSスペクトルを得た。温度制御には設備備品として購入した温度コントローラーを用いた。 得られた溶融AgCl及びAgIのAgのK吸収端近傍のXAFSスペクトルには明瞭な振動が現れた。その振幅は低波数側で大きく波数の増加と共に急激に減衰する。この振幅の振舞いはClやI原子の後方散乱振幅に一致する。即ち、溶融AgClやAgIでは正の電荷を持つAgイオンの周辺に負に帯電したハロゲンイオンが配位することを示している。イオン間距離の分布にガウス分布を仮定したカーブフィットから得られた最近接イオン間距離は、溶融AgClでは2.53A、AgIでは2.73Aであった。これらの値は中性子回折から得られている値より0.1〜0.2A小さい。このような不一致をどのように解釈するかは、原子の空間分布に不規則性の大きい系に対しXAFS分光法を応用する上で今後に残された課題の一つである。溶融AgBrのK吸収端近傍のXAFSスペクトルはAgClやAgIに比べてさらに大きく減衰している。これは溶融AgBrでは最近接イオン間距離の揺らぎが非常に大きいことを示している。溶融ハロゲン化銀をイオン性の大きさから眺めると、AgCl>AgBr>AgIの順に小さくなり、AgClの最近接イオン間距離が最も大きく揺らぐことが期待される。溶融AgBrのイオン間距離の揺らぎが他の溶融ハロゲン化銀に比べて大きいという本研究の結果は、イオン性の大きさから期待されるものとなり異なり、むしろ溶融AgBrが他のハロゲン化銀に比べて分解され易い性質を持つことが現れたものと考えられる。
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