研究概要 |
本研究では、ウランを含む重い電子系とその関連物質に対し、ウランサイトをトリウムで希釈することにより、単一ウランサイトの5f電子状態を実験的に明らかにすることが目的であった。本年度は、3種類の正方晶ウラン化合物UT_2Si_2(T=Ru,Pt,Pd)に焦点をあてた。ウラン濃度1〜7%の希釈系に対する系統的研究から、ウラン濃度に依らない単一ウランサイトの効果を分離することに成功した。本研究の成果は以下の2点に集約される。 1.上記化合物のウラン希薄領域において、下記の単一ウランサイト異常が起こっていることが明らかになった。 (1)約10K以下で降温に伴い、磁化率、比熱が対数発散的に増大する。 (2)Ru,Pt系では、約10K以下で降温に伴い電気抵抗が対数的に減少する。Pd系では対数的に増大した後約1K以下で減少する。 これらの低温異常は、局所強相関電子系として従来より知られている近藤効果が予想する正常フェルミ液体の性質とは明らかに異なるものであり、1個のウランイオンと伝導電子からなる系の基底状態に関して新たな問題を提起する最初の実験事実となった。 2.磁気異方性の観測結果から、上記化合物の結晶場基底状態が、従来予想されていた一重項状態ではなく、二重項状態であることを初めて指摘した。また、これに基づき周期系の物性に対する新しい解釈を提起した。 以上のように、本研究は、上記物質に対する単一ウランサイトの性質を初めて実験的に明らかにすると同時に、ウラン系の物性が従来の近藤格子描像の単純な延長線上では理解しえない可能性を初めて示した点で、十分な成果を収めたと考えられる。
|